ニュースレター
WCE2011 video discussion “supine PCNL+f-TUL” 顚末記

倉敷成人病センター 石戸 則孝

関西医大教授松田先生から突然のメールが届いたのは2011年6月のことでした。第29回WCE総会の会長として、ライブの代わりに、多数のnon-edited video conferenceを企画中、WCE史上初となるsupine PNL + f-TUL(小生はこの低侵襲内視鏡併用尿路結石手術をTAPと総称しています)のビデオライブを取り上げることになったそうです。PNL combineは単純なラパロのvideo conferenceに比べて校正に工夫が必要なことから、この企画の意図に副える日本人のスピーカーを捜している最中、2007年よりこの手術に取り組んできた小生に白羽の矢が当たりました。ビデオでは、手術体位、外回り、PNS作成手順、エコー画面、レントゲン透視画面、PNL、fTULの画面などを構成して、特に内視鏡画面は可能な範囲でできるだけ長い無編集クリップをいくつかつなぎ合わせるような形で、この手術の全体像と内視鏡画面を示す必要がありました。

ModeratorはEndourologyの生みの親でprone PNLを日本で普及させた Arthur Smith先生、discussantsはJohn Denstedt、Brian Duty、van Canghの3先生方、セッションの時間は45分で、35-40分程度のビデオを準備するよう指示されました。司会者を含めdiscussantsは全てTAPの論文が見当たらず、この手技に対しては懐疑的であろうと予測されました。正直、小生には少々荷が重く、この手術を考案し普及させたスペインやイタリアの先生がより相応しいと感じました。英語に不安があるものの、同時通訳が入るので日本語でも可との松田先生の詞を頼みに、D. SmithにTAPを紹介する機会の到来と感じ、スピーカー役を引き受けました。あとで判ったことですが、discussantsは全て司会者Dr. Smithのお弟子さんでした。また、学会本部から重ねて安全宣言がでていましたが、3.11後の放射線被曝を恐れて欧州よりの参加者は激減し、supine PNL + f-TULのDVDを作成したDr.Scarpaも欠席だったようです。

蓋を開ければ、この学会における結石関連での日本人のプレゼンターは小生のみでしたので、日本代表というプレッシャーを幾分か感じました。video discussion 17題中日本人のプレゼンターは2題で設楽先生(HoLEP)と小生が担当し、学会全体のスポンサーシップの関係で、9題はプログラムにスポンサーのロゴマークが入り、小生のセッションにはCOOK社のマークが入りました。

振り返れば、昨年シカゴで開催された第28回WCEで16のlive surgeryが行われ、PNLはDr. Lingemanによるproneでしたが、supine vs. prone PNLのdebate(supine: Dr. Scarpa, prone: Dr. Smith)ではじめてsupine PNLが論議の的になりました。その後の時代の流れは速く、supine PNLやsupine PNL + f-TULに関する論文が増加し、今回のWCEでは17のvideo discussionが行われ、結石に関しては小生によるPNL combineの1題だけでしたが、加えて、society meetingとしてConfederation America UrologiaのPNL how to plan the approach, supine vs. prone (Dr. Daels) や combined ureteroscopic and percutaneous approach to manage renal stones, technique, indication & advantage (Dr. Gonzalez いずれもアルゼンチン) があり、educational courseにsupine PCNL: tips and tricks(Dr. Daels アルゼンチン、Dr. Defidio イタリア)のほかにmanagement of staghorn calculi ではsupine PNL + f-TUL (Dr. Desai インド)が紹介されるまでになり、この学会でsupine PNLさらにはsupine PNL + f-TULが一挙に世界に広がった観がありました。

ビデオで提示した症例の結石はmatrix stoneだったので、ビデオのオープニングは小生の提唱するTUL-assisted PNL=TAPというロゴでサブリミナル効果を狙い、映画「Matrix」に似て音楽入りでつくりました。腎杯円蓋部はダーツボードに似ており、Dr.Smithが透視下腎杯穿刺に用いるBull’s  signがダーツから由来しているのを知っていましたので、ダーツのイメージを挿入しました。先ごろNHKで宇宙ステーションから見たオーロラの映像が放映されましたので、早速インターネットから映像を撮り、地上と宇宙の両方向から見た違いを提示することにより、経皮・経尿道的の双方向からの視認の重要性に言及しました。症例は8月に行われたものを選択し、手術室を撮影するビデオカメラ2台、X線透視、超音波、内視鏡2本で記録した6個のビデオを同期させて編集しました。術者と助手によるTAPはduet tap danceを連想させるので、Rogers & AstaireのSwing timeから1シーンを音楽入りでビデオの中に嵌め込みました。珊瑚状結石に対しては2 staged TAPの有用性を述べました。昨年COOK社の創業者Bill Cookが死去したので、この手術における腎杯穿刺の重要性を表す”Cook the Cup”という標語を掲げ、哀悼の意を込めました。エンディングは10月に当科で行った第1回倉敷成人病センターTAP1Dayトレーニングコース(COOK社共催)の模様で締めくくりました。バックミュージックとして、バルビゼのピアノによるフランス人作曲家シャブリエの「ハバネラ」を入れました。「ハバネラ」はスペイン舞曲ですが、ルーツはキューバ産で、フラメンコと混ざり合ってアルゼンチンに上陸し、タンゴへと発展したそうです。スペイン・アルゼンチンへのオマージュでしたが、実際は時間切れとなり上映されませんでした。

The making of WCE 2011 video discussion “ supine PNL+f-TUL”(:外ビデオ、X:X線透視、U:超音波、T:経尿道的、P:経皮的、太字は特に強調したいシーン)

【1】 器具(ハナコPNLセット、CLINYセット、デュアルルーメンカテーテル、18F腎盂バルンダイレーションセット、 Flexor 9.5/11F 35cm, 12/14F 35cm, STORZ 12F腎盂鏡,軟性尿管鏡、結石把持鉗子、Nサークル、持続灌流装置、日立エコー)

【2】 器機全体の配置

【3】 後腋窩線マーキング  体位とり 

【4】 尿道操作: 外 X                    
  ・膀胱鏡で、尿管ステントを引き出す。
  ・ガイドワイヤーを通し、尿管ステントを抜去する。
  ・デュアルルーメンカテーテルを留置する。
  ・Safety ガイドワイヤーを通す。
  ・Flexor 9.5/11F 35cm を留置する。
  ・軟性尿管鏡を腎盂内に挿入し、目的とする腎杯造影後、レーザーで結石破砕。内視鏡先端を腎杯に置く。5F

【5】 腎瘻作成:  外 X T U
  ・吸気で息止めし、エコー画面を見ながら穿刺する。
  ・X線透視と内視鏡モニターで確認する。
  ・内筒を抜いて、穿刺針から尿が出る。
  ・ワイヤーを入れ、拡張した後、ガイドワイヤーが入る。

【6】 スルー&スルー:ガイドワイヤーが脇腹から入って尿道に出る。鉗子で両端把持 外 X

【7】 腎瘻拡張: 外 X T
  ・CLINYセットで拡張する。
  ・デュアルルーメンカテーテルを留置する。
  ・ガイドワイヤーをもう1本追加し、両端をモスキートで把持する。

【8】 尿道操作: 外 X
  ・デュアルルーメンカテーテルを留置する。
  ・Safety ガイドワイヤーを通す。
  ・Flexor 12/14F 35cm を留置する。
  ・軟性尿管鏡を腎盂内に挿入し、腎瘻バルン拡張~シース留置を確認する。

【9】 腎瘻バルン拡張:X線透視で位置を確認する。 外 X T

【10】 腎瘻シース留置:X線透視と内視鏡モニターで留置する。

【11】 ガイドワイヤーの脇を通って尿管アクセスシースと腎瘻シース留置が留置する。 

【12】 Supine PNL + f-TUL (pass the ball) 外 X T P

【13】 残石の有無をエコー画面、X線透視と内視鏡モニターで確認する。 外 X T P U

【14】 腎盂鏡でflushingしながら腎瘻シースを抜去し、Safety ガイドワイヤーのみとする。または、腎盂バルン牽引留置し、絹糸固定後、クランプする。

【15】 腎盂バルンを留置後、軟性尿管鏡でf-TUL。外 X T

【16】 Flexorを抜去し、尿管ステント、尿道バルンを留置する。

【17】 手術終了。

小生の担当するdiscussionは11/30の4:45PMから5:30PMの予定でしたが、2PMから開始された連続5題中の最後で、前のsessionから時間が大幅にずれ込んだだめ、30分間に短縮されました。ビデオを放映しながらプレゼンを進めている途中でDr. Smithよりこの手技の有用性について質問されました。欧米(米国2人、カナダ1人、ベルギー1人)では、fibersopyはコストがかかるので、PNL combineは適応が限られるとのこと。提示した症例では、Dr. Denstedtはprone PNLを30F腎瘻シースで行うとのことでした。小生は、この症例は糖尿病や腎盂腎炎があり、水腎がなく腎杯漏斗部が狭いため、出血や感染症などの合併症を抑える目的で、UPJ閉塞バルーンカテーテルを使用せず、超音波、X線透視、内視鏡の3者同時併用(TRISTAN)で狙った腎杯へ穿刺を行い、細い単一の腎瘻を作成すべきだと反論しましたが、保険制度の関係で欧米では受け入れられないようでした。思えば、この手技は、世界に冠たる国民皆保険制度を有する日本でのみ施行可能なのかもしれません。しかし、Dr. Smith他より有意義な示唆を頂き、このdiscussionは2012年4月に横浜で開催される日泌総会シンポ「難治性結石治療」(予告:4/21 9:30-11:15 Dr.Desaiの基調講演に続いて、小生による「珊瑚状結石に対する2 staged TAP」)に向けた大きな足がかりとなりました。

学会場となった京都国際会館は2010年に日本泌尿器内視鏡学会賞を授与された会場でもあり、小生にとりまして縁起が良い場所となりました。何分、国際学会のdiscussionは初めてで、プレゼンの最中に質問が入るとは想定していなかったため、日本語で答え、同時通訳が入り、少しのタイムラグがあり、司会者からの質問を待つという、やや間延びした会話が進行したため、途中から映像と会話とはチグハグな関係になりました。フロアの先生方には、ビデオ画面を通して手術の概要を理解していただけたものと信じています。

後で会場を見回すと、ヘッドフォンを装着している外国の先生方が少なかったのは意外でした。Video discussion17題中、日本語でプレゼンしたのは小生のみだったので無理からぬことかもしれません。セッションは日米中韓4カ国同時通訳付きでしたが、改めて考えますと、WCEは英語で発表する場なので、英語から日中韓への通訳があれば十分で、そもそも日本語でプレゼンするとは考えていなかった欧米の先生方が多かったようです。同時通訳の制約に関しても、日本語から英語への通訳はまだ良しとして、日本語から中韓への通訳は不十分だったため、真意がうまく伝わらなかった虞があります。今後、小生が提案するTAPやTRISTAN法をさらに改良し普及するために、海外の学会において、特にアジアの先生方との交流を深めたいと考えています。