過活動膀胱
いきなり我慢できないような尿意が起こったり(尿意切迫感)、実際に我慢ができずそのまま尿が漏れてしまうことがある(切迫性尿失禁)、等の症状がみられる病気です。日本では排尿障害に対する疫学調査が行われており、過活動膀胱は40歳以上の男女の14.1%、すなわち約1,040万人の方が過活動膀胱に罹患していることが示されています。
過活動膀胱の原因
脳と膀胱を結ぶ神経に障害があるもの(例えば、脳梗塞、脳出血、パーキンソン病、脊髄損傷など)と、神経以外に原因があるもの(前立腺肥大症、骨盤底筋群の衰弱など)に分かれ、前立腺肥大症のある人の50~75%に過活動膀胱の症状があるといわれます。
過活動膀胱の検査
過活動膀胱は症状に基づく病気ですので、自覚症状の評価が最も重要です。尿意切迫感の症状があれば過活動膀胱と診断されますが、頻尿や切迫性尿失禁を伴っていればより確実です。
泌尿器科では、過活動膀胱の診断や重症度を評価するために下記の質問票「過活動膀胱症状質問票」を用いて、患者さん毎にご自身で記入していただき、自覚症状を点数化してその重症度の評価に活用します。
また、問診表の記入以外にも、尿検査や超音波検査などの検査によって、膀胱癌や感染症などの疾患が除外されれば、過活動膀胱と診断して治療を始めます。
- 尿検査(検尿)
尿の成分を調べ、尿路感染症の有無などを調べます。 - 超音波検査
超音波にて膀胱や腎臓の形態を把握することにより、尿の流れがどこでどれくらいとどこっているのかの評価を行います。
過活動膀胱の治療法
薬物療法、行動療法、その他の3種類に大別されます。まずは薬物療法、行動療法を行い、それでも治療効果が不十分である場合には患者さん毎に相談し、その他の治療法を行うことがあります。
薬物療法
膀胱を弛緩しやすくさせる薬を内服していただきます。
行動療法
- 基本的な生活指導
水分摂取の量やタイミング、また飲み物の種類の指導(飲酒やカフェインの摂取を控えていただく)や、肥満の方であれば減量の指導を行います。 - 膀胱訓練
尿をなるべく我慢し、少しずつ排尿の間隔を延長することによって膀胱にたまる尿量を増やします。短時間からはじめて15分単位で排尿間隔を延長し、最終的には2時間程の排尿間隔が得られるようになることもあります。 - 骨盤底筋体操
腹筋に力が入らないようにしながら膣や肛門を締める体操によって、排尿にかかわる骨盤底筋、尿道括約筋の強化と膀胱過可動も改善することがあります。
その他
- ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法
尿道から内視鏡を挿入して膀胱壁内にボツリヌス毒素を注入します。ボツリヌス毒素は筋肉を弛緩させる作用があり膀胱の筋肉の勝手な収縮を抑えるので過活動膀胱による諸症状を改善させます。 - 電気刺激療法・磁気刺激療法
電気や磁力によって骨盤底の筋肉や神経を刺激するもので、腹圧性尿失禁や切迫性尿失禁に対する有効性が示されています。 - 仙骨神経刺激治療
会陰部や骨盤部を支配する仙骨神経に持続的に電気刺激を与えることによって過活動膀胱の症状の改善を図る治療方法です。心臓ペースメーカのような電気刺激装置を埋め込んで仙骨神経を常に刺激します。
当院で行っていない治療もございますので、もしその治療を希望される場合には、治療を行っている施設へ紹介させていただきますので、遠慮なくお申し出ください。
神経因性膀胱
膀胱とは端的に言うと、尿を貯めて、出す袋です。そのどちらの機能にも脳、脊髄をはじめとした神経が複雑に関与しています。いまだにすべての排尿のメカニズムは解明されておらず、原因のわからない排尿障害を一般的に総称して神経因性膀胱ということもありますが、正確には、神経への異常に起因する膀胱の機能障害のことを指します。
神経因性膀胱の種類
神経因性膀胱の原因を整理すると、人間の神経は大まかに脳、脊髄、末梢神経の3種類に大別されます。
中枢性排尿障害
これは、脳に原因がある場合の排尿障害となります。脳機能低下の要因としては、脳血管障害(脳梗塞/脳出血など)、認知症、パーキンソン症候群、特発性正常圧水頭症などがあげられます。
脊髄性排尿障害
- 仙髄(お尻のあたりの脊髄)より上位の脊髄病変
頚髄、胸髄、腰髄に異常がある場合です。要因としては、外傷性脊髄損傷、多発性硬化症、頸髄症、脊髄梗塞、脊髄腫瘍、脊髄髄膜瘤のうち胸腰髄病変などがあげられます。 - 仙髄の脊髄病変
要因としては、二分脊椎症、腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニアなどがあげられます。 - 末梢神経障害
脊髄より末梢の神経に異常がある場合です。要因としては、糖尿病による神経障害、直腸癌、子宮癌など骨盤内腫瘍の術後、馬尾腫瘍などがあげられます。
神経因性膀胱の検査
排尿状態の把握、神経因性膀胱の原因を検索する目的で、問診やご自身で排尿の記録をつける排尿日誌の記載によって排尿状態を把握し、加えて必要な検査を行います。
- 尿検査(検尿)、血液検査
尿の成分を調べ、尿路感染症の有無などを調べます。また血液より腎臓の機能異常がないかなども確認する場合があります。 - 尿流動態検査
膀胱に生理食塩水を注入しながら尿が溜まった状態や、排尿している時の状態を再現して、膀胱の知覚と運動機能を調べる検査です。 - 超音波検査
超音波にて膀胱や腎臓の形態を把握することにより、尿の流れがどこでどれくらいとどこっているのかの評価を行います。 - 腎シンチグラフィー
特殊な薬剤を点滴しながら、腎臓の機能や尿管の通過性を調べる検査です。
神経因性膀胱の治療
排尿機能の障害があるのか、畜尿機能に障害があるのかで治療の方向性が変わります。
排尿障害がある場合
尿を出しやすくする内服薬、自己導尿、留置カテーテルなどを使用することなどがあります。自己導尿とは、各患者さんごとの専用のカテーテルとよばれる管をお渡しし、自分で尿道から膀胱に管を挿入し、定期的に尿を体外に出す手技を身に着けていただく治療法です。
カテーテルは使い捨て(ディスポーザブル)、繰り返し使用の2種類があります。導尿の回数は1日数回程度であり、回数の調整を患者さんごとに行います。患者さんが自分でできない場合等はご家族の方にやっていただく場合もあります。
留置カテーテルは35cmほどの管状のカテーテルを膀胱~尿道部分に入れたままにさせていただきます。これにより管を通して排尿が行われるので、排尿状態は改善します。1か月に1回程度、カテーテルの交換が必要になります。
畜尿障害がある場合
膀胱を弛緩しやすくさせて、膀胱内に尿を貯めやすくする内服薬を使用します。
尿失禁
尿失禁とは自分の意思とは関係なく尿が漏れてしまうことです。40歳以上の女性の4割以上が経験しており、悩んでおられる方は実は大変に多いです。尿失禁の状態や原因に応じて、1.腹圧性尿失禁、2.切迫性尿失禁、3.溢流性(いつりゅうせい)尿失禁、4.機能性尿失禁、の4つに分類され、各々に治療法があります。
- 腹圧性尿失禁
咳やくしゃみなど、お腹に力が入った時に尿が漏れてしまうのが腹圧性尿失禁です。女性の尿失禁の中で最多で、骨盤底筋群という尿道括約筋を含む排尿にかかわる骨盤底の筋肉が緩むために起こり、加齢や出産を契機に出現したりします。荷重労働や排便時の強いいきみ、喘息なども骨盤底筋を傷める原因になるといわれています。 - 切迫性尿失禁
急に尿がしたくなり(尿意切迫感)、我慢できずに漏れてしまうのが切迫性尿失禁です。本来は脳からの指令で排尿はコントロールされていますが、脳血管障害などによりそのコントロールがうまくいかなくなった時など原因が明らかなこともあります。しかし、原因不明であるケースも多いです。男性では前立腺肥大症、女性では膀胱瘤や子宮脱などの骨盤臓器の位置も切迫性尿失禁の原因になります。 - 溢流性(いつりゅうせい)尿失禁
自分で尿を出したいのに出せない、でも尿が少しずつ漏れ出てしまうのが溢流性尿失禁です。この溢流性尿失禁では、尿が出にくくなる排尿障害の原因が必ずあり、代表的なものでは前立腺肥大症や、直腸癌/子宮癌の手術を受けたことがあるなども原因となります。 - 機能性尿失禁
排尿機能は正常にもかかわらず、身体運動機能の低下や認知症が原因でおこる尿失禁です。この尿失禁の治療は、介護や生活環境の見直しを含めて、取り組んでいく必要があります。
尿失禁の検査
まず問診と診察をおこないます。ご自身の尿の記録である排尿日誌を数日間つけてもらい排尿状態を把握し、検尿やpad(パッド)テスト、エコーによる残尿量測定といった身体に負担のない検査を行います。その後必要に応じて、内診台での診察、チェーン膀胱尿道造影検査、尿流動態検査、膀胱鏡検査、脳・脊髄の画像検査などを行うこともあります。
- 尿検査(検尿)
尿の成分を調べ、尿路感染症の有無などを調べます。 - 内診台での診察
わざと咳をしたり力んだりしていただき、尿道の動きや尿の漏れ具合のほか、骨盤臓器脱(骨盤内の臓器の位置異常)の有無を確認します。 - チェーン膀胱造影検査
膀胱にチェーンのついたカテーテルを挿入し、造影剤を注入します。膀胱頚部(膀胱内の尿の出口)の開大具合や膀胱と尿道の角度を測定します。腹圧性尿失禁の診断に有用です。 - padテスト
水分摂取後に、60分間決められた動作や運動を行います。検査前後のパッド重量を計測し、尿失禁の重症度を判定します。腹圧性尿失禁の診断に有用です。 - 尿流動態検査
膀胱に生理食塩水を注入しながら尿が溜まった状態や、排尿している時の状態を再現して、膀胱の知覚と運動機能を調べる検査です。 - 膀胱鏡検査
尿道や膀胱の中を内視鏡で観察する検査です。
治療
腹圧性尿失禁の場合は、骨盤底筋訓練で排尿にかかわる筋肉のトレーニング、肥満の方の場合は減量が有効なことがあります。保存的療法では改善しない場合、または不満足な場合は手術の適応となります(TVT手術、TOT手術など)。
切迫性尿失禁の治療には、薬物療法に加えて、飲水コントロール、骨盤底筋訓練、尿意があってもがまんすることで排尿間の時間間隔を伸ばしていく膀胱訓練などの行動療法を併用します。
尿失禁は生命に直接影響するわけではありませんが、生活の質を低下させてしまう病気です。お困りの際は、恥ずかしがったり、年齢的なこととあきらめたりせずに、泌尿器科に相談してください。