男性不妊・内分泌

診療案内

男性不妊症

不妊症は「夫婦が1年間、性生活を続けても妊娠に至らない状態」といわれています。ただし、女性の年齢が高い(35歳~)場合や明らかな不妊原因がある場合などは1年未満でも加療対象になります。不妊症の夫婦の頻度は約10%(ただし加齢によって上昇)といわれていますが、2021年の本邦の調査では、4.4組に1組の夫婦が不妊治療を経験したと回答しています。これらを受け、本邦では2022年4月から不妊治療は保険適用になりました。不妊治療には、タイミング法や人工授精、体外受精(IVF)、顕微授精(ICSI)、胚移植(FET)などが含まれます。特に、後者のIVF、ICSI、FETについては、卵子と精子、あるいは胚(受精卵)を体外で取り扱う方法であり、生殖補助医療(ART)とも呼ばれています。

近年日本では、不妊治療の件数が増加しており(図1.2021年ARTデータブックより)、世界トップクラスの実施数を記録しています。また、不妊原因として男性にも約半数の原因が関与しているといわれています(図2)。男性不妊症においては、大きく造精機能障害・閉塞性精路障害・性機能障害に分類されますが、近年性機能障害の割合は増加しています(図3)。

図1
図2
図3

造精機能障害の中で最も頻度の高い疾患は精索静脈瘤です。精索静脈瘤とは、精巣から心臓へ戻る精索静脈が怒張して瘤状に太くなった状態のことをいいます。左の精索静脈は左腎静脈に合流しており迂回した走行をしているため、左側に静脈瘤ができやすいといわれています(図4)。静脈瘤が生じた場合は、精巣内の温度が上昇したり酸化ストレスが増加したりすることで精巣の機能が低下してしまいます。治療として、手術適応のある静脈瘤に対して当院では顕微鏡下低位結紮術を行っています(図5)。半数以上の方で精液所見が改善し、約30%の方で自然妊娠が得られるといわれています。また、IVFやICISを行う場合でも手術により妊娠率の向上が期待されます。

図4

図5

精液検査で無精子症と診断された場合は自然妊娠が期待できません。無精子症には閉塞性無精子症(OA)と非閉塞性無精子症(NOA)に分類されます。OAは精巣上体・精管・射精管などの精路(精子の通り道)が閉塞した状態です。一方、NOAは停留精巣やクラインフェルター症候群などが原因となり、精巣自体での造精機能が低下した状態です。OAに対しては小切開での精巣内精子採取術(conventional TESE)、NOAに対しては顕微鏡下精巣内精子採取術(micro dissection TESE)により精子の回収を試みます。

内分泌疾患

男性ホルモンであるテストステロンの低下に伴い、様々な症状を呈した性腺機能低下症に対する治療を行っています。原発性(Klinefelter 症候群など)と続発性(下垂体性性腺機能低下症など)に分類されます。テストステロンは様々な臓器で生物学的働きを有しています(図1.「LOH症候群診療ガイドライン」より改変)。先天的にテストステロンが欠如した状態では、声変わりなどの第二次性徴が起こりません。将来的に男性不妊症の原因にもなり得ます。


図1

原発性性腺機能低下症では、精巣機能が低下しており、十分な量のテストステロンが生成されません。続発性性腺機能低下症では、視床下部または下垂体から精巣を刺激するホルモン(ゴナドトロピン放出ホルモンやゴナドトロピン)が分泌されず、結果としてテストステロン分泌が低下します。

また、特に加齢やストレスに伴うテストステロンが低下した状態を加齢男性性腺機能低下(late-onset hypogonadism: LOH)症候群ということがあります。一般的には男性更年期障害ともいわれています。LOH症候群の症状は、全身倦怠感、性欲低下、勃起障害、集中力低下、不眠など多岐にわたります。テストステロンの低下は肥満やメタボリック症候群、フレイルやサルコペニアなどとも密接に関連していると近年指摘されています。

診断は、ホルモン値の測定(LH、FSH、テストステロンなど)やAging Males’ Symptoms(AMS)スコア(図2)などの質問紙を使用します。勃起障害の訴えがある場合には Sexual Health Inventory for Men(SHIM)やErection Hardness Score(EHS)を使用します(図3.LOH症候群 診療の手引きより)。従来は、遊離テストステロン値や総テストステロン値により治療適応を決定していましたが、現在は必ずしもそれらが低下していなくても症状を認める場合は治療適応になります(図4.LOH症候群 診療の手引きより一部改変)。

図2
図3


図4

精巣の機能としては、(1)精子を造る (2)テストステロンを産生する、という主に2つのはたらきがあるため、治療としてはホルモン補充によりこれらを促進していきます。ただし、原発性性腺機能低下症においては、精子形成を改善させる根本的な治療は確立されていないのが現状です。それぞれの病態に応じて、ゴナドトロピンやテストステロンの定期的な投与を継続して治療効果を確認します。

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