腎移植

診療案内

腎不全(腎移植)

腎疾患は、腎炎、ネフローゼ症候群や慢性腎不全などの腎臓内科や小児科で扱う病気と、腎癌や腎結石などの泌尿器科で扱う病気に分けられます。
そして、腎臓病とは、上記を含めた様々な原因によって腎臓の糸球体や尿細管が冒されることで、腎臓の働きが悪くなる病気です。急性であれ慢性であれ、不可逆的に腎機能が低下し腎不全に陥った状態を末期腎不全といいます。
末期腎不全となると生きていくためには腎代替療法(血液透析、腹膜透析、腎移植)を行わなければなりません。

泌尿器科では主に腎移植を担当することになります。

腎代替療法として腎移植を選択すると、透析療法と比較しその平均余命は約3倍になり、高齢者を含むすべての年齢層に当てはまるとの報告があります(2013 USRDS Annual Data Report:Atlas of chronic kidney disease and end-stage renal disease in the United States. Am J Kidney Dis.2014;63:e263-70.)。その他に、生活の制限は殆どなく、食事・水分制限が少ない、旅行・出張・スポーツは自由、出産も可能になり、小児では成長も期待でき、社会復帰率も高いという利点があります。通院も安定すれば1~3か月に1回程度となります。

また、日本において国民医療費は国内総生産(GDP)の約8%を占めていますが、2021年度の透析患者数は349,700人にも上り、総人口 1億2278万人の0.28%に相当する患者さんの透析医療費が国民医療費の約4%を占めており、医療経済上の大きな課題となっています。
移植初年度の総医療費は透析を上回りますが、その後の維持期は年間約150万と、透析の年間約500万の3割にまで医療費を削減することが出来ます。
腎移植はお金がかかるという誤解が多いのが現状ですが、患者さんにとっては自立支援医療、重度障碍者医療費助成制度の対象となり、実際の自己負担は月額最高2万円までに抑えることが出来ます。

これらが、腎移植が腎代替療法の第一選択として推奨される所以です。

現教授の荒木は東京女子医大で腎移植の臨床フェローを約2年、米国クリーブランドクリニックで腎移植フェローを3年経験され(どちらも腎移植では世界有数の施設)、日米で200例以上の生体腎/献腎移植をこなし、2009年に当科で腎移植プログラムを立ち上げました。2023年3月までに155名の方々が腎移植を受けられ、1年生存率、生着率(移植した腎臓の機能が保たれ、透析を必要としない状態)ともに100%を維持しています。『丁寧に、慎重に』をモットーに日々の診療にあたっています。

具体的には、腎移植を受けるレシピエントには提供者であるドナーが必要となります。日本では健康な親族(6親等以内の血族、配偶者、3親等以内の姻族)から提供を受ける生体腎移植、脳死や心停止ドナーから提供を受ける献腎移植(献腎移植希望登録申請が必要)に分けられます。
生体腎移植においては、血液型が一致していなくても移植は可能です。不適合(例えば、A型からB型へ、B型からO型へ、など)でも一致と同等の成績も報告されており、移植前から適切に準備(脱感作療法と呼びます)して手術に臨みます。術後は2~3週間で退院となり、拒絶反応を抑えるための免疫抑制剤を服用し続けることになります。2022臓器移植ファクトブックによると、2010~2020年では10年生着率は81.1%となっています。
また、ドナー手術については低侵襲、整容性も考慮し、当科では腹腔鏡(後腹膜到達法)で行っています。下腹部手術歴がない方はPfannenstiel切開という方法にて腎を採取しており、術後創部のつっぱり感も少なく、下着で創部も隠れるといったメリットがあります。腎提供後のドナーに対しても、生活習慣の確認・指導や定期的にがん検診を受けているか等の問診を中心に積極的なフォローを行っています。

日本の腎移植は生体腎が約9割を占め、献腎は年間凡そ100例と少ないのが現状です。献腎移植希望患者数は2024年3月時点で14,519人と緩徐に増加しており、日本臓器移植ネットワークによると2020年に献腎移植を受けた方の平均待機期間は16年にも及び、ドナー不足が大きな問題となっています。ここ数年、徐々に脳死ドナーからの提供が増加傾向にありますが、より多くの人が臓器提供意思表示を行うことが重要となってきます。


(日本臓器移植ネットワークより)

また、心停止後臓器提供(近年、『心停止と組織への非可逆的循環・酸素化停止状態』と国際的に定義;Donation after Circulatory Death→DCD)は、新型コロナウイルス感染症の影響もありますが日本ではかなり少ないです。欧米で普及が進んでいる機械灌流保存法やV-A ECMO(Extra Corporeal Membrane Oxygenation)を装着して臓器の虚血障害軽減を図り臓器の状態を評価しながら臓器提供に繋げるNRP(Normothermic Regional Perfusion)の導入に向けた準備・検討がなされています。
近年、iPS細胞の移植医療への応用や遺伝子改変したブタの臓器を用いた異種移植の臨床研究も行われており、今後の移植医療の進歩が期待されています。

技術面においては、ロボット手術が泌尿器科だけでなく各外科方面でも普及している中で、ロボット腎移植にも注目しています。当科では荒木が中心となりアジア・ヨーロッパで初となるロボット自家腎移植を行い、良好な経過をたどっています。
※自家腎移植:腎動脈瘤や難治性の尿管狭窄(水腎症)に対して、瘤や狭窄部を切離した腎臓を自身の骨盤内へ移植する術式です。当初は開腹手術で傷口が大きいため術後創の痛みが問題でしたが、ロボット手術により傷が小さく術後の回復が早くなり、また、術後トラブル(合併症)が少ないと報告されております。

海外では腎不全に対するロボット腎移植が既に行われており、将来的には日本でも行われることが予想されます。

腎移植基礎研究については、世界トップクラスの腎移植施設であるクリーブランドクリニックへ2024年4月時点で3名が留学し、マウス腎移植モデルを用いた移植免疫や抗体関連型拒絶の研究等に取り組んでいます。

腎不全の治療

腎臓とは

腎臓は腰上部両側にあるそら豆のような形をした握り拳大の臓器です。
腎臓の基本的な役割は心臓から送られた血液をフィルター(=腎臓)でこし出すことによって、血液中の老廃物や余分な水分を尿として体外に排出します。

腎臓の役割

腎臓の最も重要な役割は血液を濾過して尿を作り、これを体外に排出することです。
食事や飲水などによって体に溜まる余分な水分や老廃物を尿として体の外に排泄します。必要なものは再吸収して体内に留め、体内を一定の環境に維持しています。
また、腎臓は血圧を維持するホルモン(レニン)や血液をつくる造血ホルモン(エリスロポエチン)をつくり、血圧のバランスをとったり、貧血を防いだり、カルシウムを吸収して骨を作るビタミンDを活性化して、骨の量や質の維持やカルシウムバランスの維持に努めています。

慢性腎臓病・腎不全

慢性腎臓病とは3ヶ月以上持続する尿異常(蛋白尿・血尿)、腎機能が約60%未満にまで低下した状態を指します。腎機能が正常の60%未満に落ちると、下記のような症状が出始め、進行性の腎機能低下があると考えられます。正常の15%以下の低下となり、透析か移植が必要に差し迫った状態を末期腎不全といいます。

腎機能(目的) 症状 検査所見 必要な処置
90%以上 ほとんど無し 蛋白尿・血尿・高血圧 定期的検査
60~90% 一度は腎臓専門医受診
30~60% むくみ 上記+クレアチニン上昇 腎専門医によるフォロー腎不全進行抑制の治療
15~30% 上記+易疲労感 上記+貧血・カルシウム低下 透析・移植の知識取得
腎不全合併症の治療
15%未満(末期腎不全) 上記+吐気・食欲低下
息切れ
上記+カリウム/リン上昇
アシドーシス・心不全
透析・移植の準備
10%以下の腎機能では透析開始・移植施行

(腎不全の治療選択 腎臓学会PDFより許可を得て抜粋)

腎不全の治療法

慢性腎不全は現在の医療では元の正常な状態に回復せず、そのほとんどが末期腎不全に移行します。ただし、適切な治療によって、末期腎不全いたる時期を遅らせることが可能な場合があります。具体的には腎不全の原因となっている病気(たとえば糖尿病や腎炎)の治療があげられます。また、高血圧・高コレステロール血症・肥満などの生活習慣病の薬剤や生活指導による是正、食事療法(低塩分・低蛋白)などが大切になります。

治療方法 具体例
原疾患の治療 糖尿病のコントロール・腎炎の治療 など
生活指導 適切な運動・禁煙
鎮痛薬・造影剤など腎毒性物質の制限・禁止
定期的な外来受診・服薬
食事療法 低塩分食・低蛋白食
薬物療法 高血圧の治療
蛋白尿を減らす治療
(ACE阻害薬・アンジオテンシン受容体拮抗薬)
尿毒素を除去する療法(活性炭など)
腎不全による症状
に対する治療
貧血の治療(エリスロポエチン投与)
骨病変の治療(ビタミンD投与など)
高カリウム血症の治療(陽イオン交換樹脂)
酸血症(アシドーシス)の治療(重曹など)

(腎不全の治療選択 腎臓学会PDFより許可を得て抜粋)

末期腎不全に対する治療手段

末期腎不全に至った場合は回復の可能性がなく、尿毒症や高カリウム血症(不整脈・心臓が止まることもある)・心不全などの重大な問題を起こすので、移植や透析をする以外に方法がありません。腎機能だけで言うと、大体10%以下程度の腎機能で移植や透析が必要になります。また、薬でコントロールできない心不全や尿毒症症状(吐気、栄養不良など)、高カリウム血症等が生じれば、移植や透析を早期に行う必要があります。

末期腎不全に対する治療手段として腎臓の機能のうち、水・老廃物を除去する手段である「透析療法」と腎臓の機能をほぼすべて肩代わりする「腎臓移植」の2通りがあります。

透析療法:血液を透析器を通してきれいにして戻す「血液透析」と、お腹にカテーテルという管を入れてそれを通して透析液を出し入れする「腹膜透析」の2種類があります。
腎臓移植:代替療法として理想的な治療法であり、少量の免疫抑制剤の継続的服用以外は、健常者と同様な生活が送れます(ファクトブック2008より)。移植の進歩により腎移植の適応が広がっています (血液型(ABO)不適合移植、夫婦間移植、高齢者移植、合併症の多い移植など)。
家族・配偶者・身内から2つの腎臓のうちの1つの提供を受ける「生体腎移植」と、脳死や心臓死になられた方から腎臓の提供を受ける「献腎移植」の2種類があります。

腎移植

腎移植は腎不全に対する理想的な治療法であり、少量の免疫抑制剤の継続的服用以外は、健常者と同様な生活が送れます。一例をあげればアメリカプロバスケットボール(NBA)選手のアロンゾ・モーニング選手です(写真下)。彼はオールスターに7回も選ばれた選手で、野球でいえばイチロー選手並みのスーパースターです。彼は腎臓病を患い腎移植を受けました。その後現役復帰し、移植前には果たせなかったNBA優勝を成し遂げました。私は丁度その時アメリカにおり彼のプレーを実際に見ましたが、その活躍は目覚ましく優勝に大きく貢献していました。残念ながら透析ではここまで元気にはなれません。この他同じくNBA選手のショーン・エリオット選手(NBAのサンアントニオ・スパーズに在籍した名選手、31歳で腎移植を受け、現役復帰。スパーズ時代の背番号32番は永久欠番)、ラグビーではオールブラックス(ニュージーランド代表)のスーパースター、ジョナ・ロムー選手(史上最年少の19歳でオールブラックスに選出。 29歳で腎移植。35歳までプロラグビー選手として活躍。2007年殿堂入り。)など多数のプロスポーツ選手が腎移植後、プロ選手として現役復帰を果たしています。

http://medipress.jp/advisers/23


移植の進歩により腎移植の成績は向上し、また適応も広がっています (血液型(ABO)不適合移植、夫婦間移植、高齢者移植、合併症の多い移植など)。また岡山大学泌尿器科では年間100例以上という豊富な腹腔鏡手術の経験を生かし、ドナーの手術は腹腔鏡下(カメラ)腎摘出手術を導入しています。従来の開腹手術に較べ出血が少なく、傷も小さいため、早期の社会復帰が可能となります。

専門医とつくる腎移植者のための医療情報サイト『MediPress腎移植』

山陽新聞

腎移植について詳しく話を聞きたい方へ

岡山大学病院看護部では移植コーディネーターを配置しております。
コーディネーターとは移植を受けられる患者さまと、移植チームの橋渡しをする、移植医療の調整役です。腎移植に関する素朴な疑問や質問など、お気軽にお問い合わせください。いきなり医師に話を聞くのは気が引けるといった方の相談にも応じています。

お問合わせの連絡先は
岡山大学病院 移植コーディネーター室
TEL:086-235-6965 (FAX:086-235-7631)
でお願いいたします。また地域連携(Tel 086-223-7151, Fax 086-235-7744)で腎移植紹介といっていただいても自動的に水曜日の予約になります。

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